人間も動物である〜東浩紀 著【ゲンロン0 観光客の哲学】〜

東浩紀 氏による書籍【ゲンロン0 観光客の哲学】の読書感想文をかいてみた。
東浩紀 氏は言論人として有名だが、それはいわゆる小難しい人間ではなく確かに難しい言葉を使っているのだが、とても軽快に分かりやすく理念や思想を伝えてくれる。
話を聞いているだけで一つ二つではおさまらないほどの情報量をまとめて懐に落とし込んでくれるのだ。
そんな氏が自身の経験をもとに情報を整理そしてアップデートし、内容の質を落とすことなく非常に分かりやすくまとめ上げた渾身の一冊について述べる。
以下。書籍説明(Amazon商品説明より一部抜粋)
東浩紀の「集大成」 インターネット以降の人間は「観光客」として生きていく
オビには「集大成にして新展開」とあり、著者自ら「最高傑作」と公言して憚らない渾身の書物である。哲学者として、批評家として、小説家として、思想家として、東浩紀がこれまで歩んできた道のりのすべてが本作に結集し、未来に向かって流れ出している。
観光客とは何か? それは「特定の共同体にのみ属する『村人』でもなく、どの共同体にも属さない『旅人』でもなく、基本的には特定の共同体に属しつつ、ときおり別の共同体も訪れる」という存在のことである。この三分法はすでに以前の著作『弱いつながり』で提示されていた。本書はそのような「観光客」の出現の意味と意義にかんする理論的な説明と、そこから発展してゆくさまざまな可能性を述べたものだ。
タイトルにも入っているが本書で出てくる”観光客”というキーワード。
この”観光客”というワードは哲学的な概念として本書では使われている。
人生はいろんな偶然により形成されているので平均的で理想的な人生は存在しない。”観光客”はトラブルがつきもの。なんでも興味があれば首をつっこみ、それにより起きるトラブルや偶然が醍醐味でありそれが面白い。
”家族”についても言及されており、これがとても興味深かった。抽象的な議論ではあると前置きしつつ、家族という概念は非常に面白い。拡張性が高い割には一体感があり、共通するものを持っていそうで持っていなかったりするもの。
家族としての”つながりの”意味をもう一度考えてみてはどうだろうか?と投げかける。
世界の”二層構造”という形で本書では触れている。ここでの二層構造というのは政治と経済の二層構造であり、経済は世界でつながっているが、政治はバラバラ。
例えるなら”体は繋がっているが頭だけバラバラ”であり、人類全体の一体感はないが繋がっているという切り離せない矛盾はこの先何年も続くということである。
政治の影響力をある程度制限し、世界をなるべく多くの人が行き来できる経済条件を高くしていくことが”世界平和”につながるという言及においては納得する部分もあるが、上記の矛盾が続くためにおそらく不可能のようにも思える。
しかし、世界平和の方法の一つとしてとても興味を覚える部分であった。
筆者が重要であると説く部分。”人間と動物という対立、人間も動物である”という問いが非常にまとまりがあり分かりやすい。哲学思想を読んだことがない。関心がなかったという人もわかりやすく読める内容になっていた。
その上で本書の一番の面白さは、ある団体や専門職の人々に対し、関係ない薄い第三者たる”観光客”がふらっとたちより、興味本位で物事を吸収すれば必ずその”つながり”は大きな偶然のムーブメントを呼び起こす。
このあたりの著者の得意とするいわゆる”弱いつながり”的思考が面白い。
個人的にはこれを実践するだけで人生はかなり豊かになると改めて感じた。
人生とはどう生きるか?について内容を削らず、著者自身の経験をアップデートし、哲学の話としても遜色ない内容で分かり易くまとめ上げ、本人いわく、”神本”として仕上げた渾身の一冊。
最後のメッセージに至るまでの”繋げ方”には圧巻だが、そのメッセージを先に読んでから読み始めてみても面白いかもしれない。